2011年11月9日水曜日

フォボス探査機、失敗か


日本時間11月9日午前5時16分、ロシアのフォボス探査機〝Phobos-Grunt〟(Grunt はロシア語で「土」)と中国の火星周回衛星〝Yinghuo-1〟を搭載したロケットが、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。打ち上げそのものはうまくいったようですが、その後、深刻な問題が発生したと伝えられています:
ロケットの軌道を追跡していたアマチュア観測者(複数)によると、探査機を惑星間飛行の軌道に乗せるためのロケット噴射が予定されている時刻を過ぎても軌道に変化がない、また、本来一つであるはずなのに、軌道上に二つの物体がレーダーで観測されているとのこと。

〝Phobos-Grunt〟の公式ウェブ・サイトでは、探査機からのテレメトリー(遠隔計測)信号を受信できていないと、担当者が認めています。

〝Phobos-Grunt〟は、2013年2月に火星の衛星フォボスに着陸し表面の物質 200g を採取、同年3月にフォボスを離陸し、2014年に地球の大気圏に突入してフォボスの表面物質のサンプルを地球に持ち帰ることになっていました。

〝Phobos-Grunt〟には地球の生物が載せられています。極限環境に生息し強力な放射線にも耐えることができるバクテリア(Deinococcus radiodurans)、地球最強の生物といわれるクマムシ(緩歩動物写真)、そして植物の種です。打ち上げから地球帰還までの約3年間、これらの生物が宇宙空間の過酷な環境に耐えうることを示して、パンスペルミア仮説を実証しようという試みです。

フォボスの謎として私が第一にあげたいのは、表面に見られる無数の溝状の地形です(写真)。ほとんどが平行に走っており、何かが転がった跡のようにも見えます。他のいくつかの小天体でも類似の地形が見つかっているのですが、フォボスのものが最も顕著です。この地形の成因はよくわかっていません。火星表面に大きな隕石が落下した際に、飛散した破片がフォボスの表面を掠っていった痕だという説があるようです。〝Phobos-Grunt〟が接近・着陸すれば、この謎が解き明かされるかも知れないと期待していただけに、今回の「失敗」の報は非常に残念です。


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