2011年2月25日金曜日

大地震の前兆が地震計に記録されていた


1999年にトルコで発生したイズミット地震(M7.6)の地震計記録を詳細に調べた結果、地震の 44分前から前兆が現れていたことが判明しました:
  1. Earthquake Prediction A Quake May Have Hinted That It Was on the Way
  2. Tiny energy bursts may foretell massive earthquakes
  3. Izmit earthquake (Turkey) : early warning signals detected for the first time

イズミット地震は、震源断層の直近に地震計が設置されていたため、“best-recorded large earthquakes”(もっとも良く記録された大地震)とされています。この記録をフランスとトルコの研究者が詳細に分析した結果、これまで実験や理論によって予測されていた「前兆」が記録されていたことがわかったとのことです。上記 3 の記事から主要部分を意訳します:

科学者たちはイズミット地震の震央近くで得られた地震記録を分析し、これまでに観測されたことのない非常に特徴的な地震シグナルが、断層の破壊が始まる直前に現れていることを見いだした。より具体的には、よく似た振動の繰り返しが、地震発生前の 44分間にわたって継続して記録されていることが明らかになった。この記録が示す大地の動きはほとんど連続していたが、人が感じることができないほど微かなものであった。この振動は、徐々に強度を増しながら地震の直前まで続いた。

この地震シグナルを分析した結果、この振動は地震が起きた断層のゆっくりとした不連続な滑り(スロースリップ)によって発生していることが判明した。このシグナルは、断層の破壊が始まる 44分前から深いところで断層が滑り始めていたことを示している。この滑りはその後も継続し、徐々に加速して本震に至っていた。

イズミット地震は、深さ 15km 前後で、地殻の脆弱な部分の基盤にある断層のスロースリップによって始まった。研究者たちによって見いだされたスロースリップの明瞭な形跡は、地震の予備段階の兆候である。

(このように地震直前にスロースリップが発生することは)これまでにも理論や研究室での実験によって予測されていたが、実際に立証されたのは初めてのことである。断層の近くに設けられていた GPS観測点(複数)の観測装置は、このようなスロースリップの過程をとらえられるほど鋭敏ではなかったので、当時はこのような前兆シグナルが見逃されていたと考えられる。地震波の記録の非常に詳細な分析だけが、今回の発見を可能にしたのである。さらに加えて、地震発生の予備段階を検出するのに理想的な発震メカニズムをもつ地震の、非常に良く記録された観測データを研究者たちが使うことができた点も今回の発見に寄与している。

研究者たちによれば、今回イズミット地震で見いだされた地震の予備段階は、他の地震にも存在する可能性があるが、特にイズミット地震と同じタイプ(横ずれ断層タイプ)の地震にその可能性が高いとのことである。

地震の予備段階の長い継続時間(44分間)と非常に特徴的なシグナルは(地震予知にとって)有望な要素である。新たな観測によって、今回見いだされたような地震の予備段階の存在が他の地震でも確認されれば、地震のタイプによっては、断層の破壊が始まる数十分前に予知することがついに可能になることであろう。

報道によっては、今回見いだされた地震予備段階のシグナルに対して “foreshock”(前震)という言葉を使っていますが、記事の内容を見る限り 「前震」 という言葉を使うのは適切ではないと思います。

イズミット地震は陸上の横ずれ断層(strike-slip fault)が動くことによって発生しました。日本付近で起きるプレート境界型の大地震は逆断層の運動によるものなので、今回の発見がそのまま当てはまるかははっきりしません。しかし、日本でもこのブログの 2010年 3月 6日付 「豊後水道周辺でスロースリップ (補足)」 で紹介したように、スロースリップが加速度的に拡大して大地震に至るシナリオが研究されています。もし、今回見いだされたような前兆が他の大地震にもあるのであれば、大地震に襲われる数十分前に警報を出すことも夢ではありません。


過去の関連記事