2009年9月7日月曜日

ロシアの地震予測サイトについて

「西多摩の鶯」さんが運営する『宏観休憩室』という地震前兆についての掲示板があります。このブログを始める前には、しばしば利用させていただきました。現在も毎日チェックしていますが、そこに以下のような疑問が投稿されていました:
以前から気になっていたのですが、
この鶯さんのサイトでリンクされている「ロシア予測」サイト。。。
いったい何を根拠に『予測』しているのでしょう。
以下は、2005年 4月 6日に『地震の前兆現象研究情報交換用掲示板』(現在は休止中)に私が投稿した記事の写しです。後に「ロシア・サイト」と通称されることになる地震予報サイトを、日本に紹介した最初の記事ではないかと思っています:
Russian Scientist Claims to Have Predicted Important Quakes
投稿日 4月6日(水)22時42分 投稿者 Nemo [proxy26.rdc1.kt.home.ne.jp] 削除

サンクト・ペテルブルクにあるロシア極地研究所の科学者が、数々の地震を予報し的中させている、と英語版プラウダが伝えています。(記事の冒頭で、アメリカ軍がイラクで秘密兵器を使い強い地震を引き起こした云々という“トンデモ話”系の文章が出てきますが、理由は記事を最後のパラグラフまで読むとわかります。)

同研究所のホームページによると:
  1. 予報の対象は北半球、70km以浅の中・大規模地震
  2. M4-5クラスの予報の確度は70%、それより規模が大きい場合は80%
  3. 予想震央の範囲は半径60km
  4. 日曜日以外の毎日予報、更新は12:00(UTC)以降
  5. 2日前に予報、1日前に修正
  6. 1997年以降予報を実施、被害の予想される地域になかなか情報が届かないため、2000年3月からWebでの公開を始めた。
予報は、気象情報にもとづく大気圧変化の解析と天文学的な周期的変化をもとにして行っているようです。

英語版プラウダの記事
http://english.pravda.ru/science/19/94/377/15035_tsunami.html

ロシア極地研究所 地震予知のページ
http://www.aari.nw.ru/clgmi/vnb/earthquak2.asp

48時間予報地図
http://www.aari.nw.ru//clgmi/vnb/pics/eq_1.gif

(注意)上記の極地研究所URLは、Webサーバーが停止することがあるようで、数日間全くアクセスできなくなることがあります。
このサイトが使っている予報の原理は以下のページに説明されています:
ロシア人が書いているためか、非常にぎこちない英文で、綴りや語法の誤りもあって翻訳しにくいですが、冒頭のパラグラフを意訳してみます:
太陽に擾乱が発生してから 2-3 日後に地震が発生することを私たちは発見した。この期間内の大気圏の大局的プロセスを背景として、将来地震を起こす震源の周辺で大気塊の局所的かつ急速な再配置が起こりうる。このような将来の震源では、テクトニックな断層の片側が他の側に比べて、1 平方キロメートルあたり 10万トン以上の荷重を大気圧によって受ける。テクトニックな断層がある地域で地表面にかかる荷重が急激に変化すると、地表面に近いところで地震が発生する可能性がある。この仮説にもとづいて、私たちは浅い地震の短期予報(1-2日前)の手法を開発した。
【2009年09月08日追記】
上掲の翻訳について以下のようなコメントがありました:
"perturbations"を「撹乱」と訳しておられるので、最初は『太陽フレア』のことかなと思ったのですが、辞書をひくと、「摂動」と定義されているようです。となると、引力によって何らかの影響を受けるという意味なのでしょうね。
「ロシア・サイト」が提供する地震予報の原理に関わるポイントなので少し説明を補います。実は、この“perturbation”という言葉を天文学や力学で使われる「摂動」と訳すべきなのか、一般的な「動揺」とか「擾乱」(じょうらん)と訳すべきなのか、かなり迷いました。訳文の前に「ロシア人が書いているためか、非常にぎこちない英文で、綴りや語法の誤りもあって翻訳しにくい」と断りを書いた理由の一つがこの単語でした。最終的に「摂動」とせず、「擾乱」としたのは以下の理由によります:
  1. 「摂動」は、天体の軌道が他の天体の重力などの影響によってケプラー軌道からずれることを指します。たとえば、彗星の軌道が木星などの巨大惑星の重力場によって変化したり、天王星の軌道が海王星の重力によって乱されたりするのが「摂動」の例です。原文では“perturbations on the Sun”となっていますが、太陽系最大の質量と重力を持つ(したがって他の天体からの摂動を受けにくい)太陽に対して「摂動」という言葉を使う可能性は低いと考えたこと、および、私の見た範囲では、このサイトに地震予知に関連して天体力学的な記述がまったく出てこないことが「摂動」としなかった第 1 の理由です。
  2. サイト中に参考文献としてあげられている 7つの論文のタイトルの中に “Influence of perturbations of interplanetary medium on seismicity and atmosphere of Earth”(惑星間媒体(太陽風のことか?)の perturbations が地球の地震と大気に与える影響)、“About planetary atmospheric perturbations during the strong earthquakes”(強い地震の最中の惑星大気の perturbations について)とあり、少なくとも後者は「摂動」とは考えにくいこと。「乱れ」とか「動揺」という概念に対応するあるロシア語の単語を英語にするときに、“perturbation” という言葉が好んで(自動的に?)選択されているように思えることが第 2の理由です。英語の語彙が限られている日本人が書いた英文にも、しばしば同様の傾向が見られます。
  3. 同じく参考文献としてあげられている論文のタイトルに “Connection of seismicity of the Earth with solar activity and atmospheric processes”(地球の地震と太陽活動および大気プロセスとの関係)とあり、地震とフレアなどの太陽活動に関連性があると考えているように受け取れることが第 3の理由です。
【ここまで追記】

Image Credit: U.S. Central Intelligence Agency